万世大路工事事故記録

 

 

工事終了後、工事の従事者が記録したものの要旨である。

 

昭和8年度

 

 二ツ小屋隧道東口(福島側)下の大きなヘアピンカーブに2t程の石が路面に突き出しており、その端に約44立方m程の

大石(110t)が乗っていた。

 10月4日正午の昼食時、作業員は食事を始めたが、吉田岩松氏(住所:飯坂町湯野小学校前)は小さい方の石の根掘り

をした。すると間もなく110tの大岩石が転がり落ちてしまい、吉田氏は下敷きとなり即死した。遺体は煎餅状に圧搾されて

人間の様相を為していなかった。

 大岩石は幾分風化し小さくなりながらも現存する。

 

 

 

 冬の夕刻、山田美好氏は削孔に挿入されていた破砕用爆薬の不発に気づかず削岩機をあてがったため、不発火薬が爆発した。

削岩機を握っていた右手の第2,3,4指の3本が切断されたが、洞外は猛吹雪で医師もいない。やむを得ず、スキー団を組織し

主に佐藤彦七氏が山田氏を背負って夜半までかかり大滝部落(1977年廃村)まで下った。医師はいない部落であったがそれ以上

進むのが不可能であったため1泊することになった。厳寒の折、負傷者をこたつに休ませたが、それがあだとなり化膿が進んだ。

 翌朝同様の方法で円部まで進み、そこから大原病院までは自動車で搬送した。

 

 


昭和9年度

 

 二ツ小屋隧道は明治の素堀隧道を拡幅したため通り抜けは可能であったが、工事が進行中で坑内通過の物品輸送は困難であった。

それでも東口、西口間の輸送は不可欠であったため、削岩機用圧搾空気を送る鉄管などを数名がかりで山越え運搬することにした。

然し、同じくこの峰越えには工事用送電線(3300V)が架線しており、鉄のガス管(長さ5.4m)2本をそれぞれ運ぶ際にはこの電線の

下をくぐらねばならなかった。積雪が多く、この年の場合は雪面と送電線との間はわずかに1m程であり作業員の多くは雪面に鉄管を

置いてくぐりあとから鉄管を引きずり上げた。しかし、奥平庄七氏(住所:白石市市街地南入り口付近)は鉄管を担いだまま通過を試みた。

鉄管が高圧線に触れ、感電する結果となったが、あまりの高圧電気のため首に電線が食い込み、首の2/3ほどが焼け焦げて空洞が

出来ている状態だった。

 奥平氏の遺体はその日のうちに貨物自動車で白石市の自宅に戻された。

 

 

 栗子隧道東口(福島側)は落盤の多いところで、支保杭も急いで設置していたが坑口から160mの地点で大落盤が発生し、坑内で

土石をトロッコに積み込む作業をしていた新井仁太郎氏が下敷きになった。落盤止め、掘り出しに時間がかかり救出時にはスコップを

握ったまま既に落命していた。

 その後遺体の引き取り手を探す際に手間取り、ようやくのことで戸籍抄本を手がかりに福島市五月町の叔母を捜し出した。ところが

叔母は引き取りを拒否したため、葬祭料、及び扶助料の支給を告げると一転して快諾した。身寄りが少なく、葬儀参列者はわずか数名であった。

 


 

昭和10年度

 

 

 8月5日、栗子隧道西口(米沢側)から40m入った地点でコンクリ巻き立て金型が落下し、直下にいた横山昇氏が下敷きになった。

周囲にいた者が急いで落下物を取り除くと、他の障害物のおかげで体には全く傷がなかった。が、同僚が喜んで抱き起こすと間もなく

ウウと言ったきり息が絶えた。死因はショック死と診断され、助かった直後に安堵したことがあだになったと思われた。

 翌日遺体は山形県川西町小松の生家に送られた。

 

 

 昭和11年3月27日午後4時頃、栗子隧道内で空気圧搾機運転手の鈴木清一氏は坑内切り拡げのため削岩夫に作業指導中であった。

しかし、その最中に不発残留の雷管に触れたため爆発。雷管の破片が顔面、のど、両手を直撃し突き刺さった。残雪も深く、スキー団を組織し、

板谷駅まで運んで福島市の大原病院まで搬送したが破片は微細なものもあり全部を取り除くことはできなかった。

 眼球に入った破片の影響で視力はなくなり、顔やその他も元には戻らなかった。

 

 

 昭和6年度の失業救済土木事業として松川橋架橋事業が行われたが、その際使用した仮設橋用材は栗子隧道の支保杭として再使用された。

栗子隧道東口付近でこれを製材していた吉田氏の右眼に古木片が飛んで突き刺さった。本人は自力で引き抜こうとしたがかなわず、大原病院

にて治療を受けた。奇跡的にも失明は免れた。

 

 

 その他、トロッコの衝突、転覆、土石崩壊、落盤などにより昭和8〜11年度までの4年間に限っても193人もの死傷者を出している。

(うち死者4名)。安全管理という基本的意識がない時代でもあり、工事のための投資はあっても安全対策までには及ばない状況が背景にある。

 

 

 

 

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